『黒峠の頃から』

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<山沿いに咲き始めた日本水仙>


今朝の話は、
広島県では県北の山県郡にお住まいの97歳の主婦の方の投稿文です。
良かったらご覧ください。

『黒峠の頃から』
 「けんご(全く)昔にのう、山に大けな樫の木があったんよ。
それが大風で倒れて、臼をこさえてみたら、十も出来た。
その時からここの字は『臼ケ峠』となった。」
 いつのことか、どういう場面だったかも覚えていない。
だが、しゅうとから確かに聞いた。
まるでおとぎ話じゃ、と当時は思った。
しかし後になって、門徒寺の資料に記されているのを見つけて、
なるほどと納得した。
 時は流れ、村となるとともに字は「黒峠」に変わった。
その字の頃、私はこの地に嫁いできた。
炭俵、千歯こき、肥料、稲と背の空く暇もないほど毎日負い続けた。
二人が並んで歩けない細い、つづら折りの急道をあえぎながら上り下りした。
「黒峠」ではなく「苦労峠」だった。
親がこの姿を見たら、さぞ胸を痛めるだろうとひそかに嘆いた。
 その後、村は合併して字がまた変わった。
どういうわけか「穴」となった。
そして集落から一軒また一軒と消えていった。
気が付けば「穴」に暮らすのは私一人である。
 いや、もう一つ家がある。
日が暮れるのを待って穴から出て来て、
私の家の周りを掘りたくって帰っていく。
イノシシだ。
 亥年は去っても、このイノシシに「さよなら」はできない。
今やイノシシだけが同じ「穴」で正月を迎えたとぎ(友人)なのだから。

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